藤原正彦「若き数学者のアメリカ」

大学くらいのときになにかの書評かなんかで見て気になっていたタイトルを本屋で見かけてなんとなく買ってみたら面白かったので、他の著書も読んでみようかと思って本屋で探してみたらこの人は「国家の品格」を書いた人なのであった。

「若き数学者の〜」は著者がアメリカの大学に招かれて渡米したときの滞在記であって、時に1972年、本書出版は1981年だから、初めての洋行で気負う自分を10年後のやや覚めた目で描くという視点が特徴的と言えば特徴的だが、林望イギリスはおいしい」にしろ、学者先生の海外記というのはえてしてそういったものではある。

本書を特徴づけているのは藤原青年が冒頭から露わにする強烈な外国コンプレックスであり、また懊悩の中にあっても数学者らしい徹底した分析眼を自身に向ける様である。

アメリカとは何であるか、アメリカ人とは何であるかを血眼で問い探し、ついにはノイローゼにまでなる様は、先に並べた林望が英国上流階級にスマートにとけ込んでいく様とは対称をなすかのようだ。
後に「国家の品格」を著す動機はすでにこの時点で形成されているとも見える。


とまあそんなわけで、新渡戸稲造を読みすぎた国文学者か社会学者が書いたのかと思って読んでいなかった「国家の品格」をぜひ読んでみたいと思ったのであるが、あれだけ売れた本をわざわざ自分で買うのは癪なので、せっかく図書館の近くに引っ越したことであるから図書館で探したいと思う。


いやしかし、リンボウ先生といいどくとるマンボウといいファインマン先生といい、俺は学者の書いたエッセイが好きなことだなあと思ったことであるよ。

若き数学者のアメリカ (新潮文庫)

若き数学者のアメリカ (新潮文庫)